入院のお金、いくら備える?「長期入院」と「入退院のくり返し」まで考える医療費の備え方

この記事の結論
入院は短くなっている一方で、脳卒中や心の病気では長期入院も。治療によっては入退院をくり返すこともあります。入院の自己負担の平均、2026年8月に変わった高額療養費制度、会社員と自営業・経営者の違いから、医療保険の選び方と生活防衛資金の考え方までまとめました。
「入院は短くなっているから、大きな備えはいらない」。本当にそうでしょうか?
病気やケガでの入院は、誰にでも起こりえます。最近は医療の進歩で入院が短くなり、「医療保険はいらない」という声も聞くようになりました。
たしかに、多くの入院は短くなっています。でも、病気によっては長期入院になること、そして治療のために入院と退院をくり返すこともあります。この記事では、データをもとに「入院のお金」の備え方を整理します。
入院の日数は、病気によって大きく違う
厚生労働省の調査によると、入院の平均日数は全体で28.4日。働き盛りの35〜64歳に限ると20.2日です。ただし、病気ごとに見ると大きな差があります。
| 病気 | 全体 | 35〜64歳 |
|---|---|---|
| 全体 | 28.4日 | 20.2日 |
| 胃がん | 14.7日 | 10.3日 |
| 大腸がん | 15.3日 | 11.5日 |
| 心疾患 | 18.3日 | 8.3日 |
| 骨折 | 35.4日 | 19.1日 |
| 脳血管疾患(脳卒中など) | 68.9日 | 44.5日 |
| 気分障害(うつ病など) | 118.2日 | 85.3日 |
がんや心臓の病気は、手術の技術が進んで入院が短くなっています。一方で、脳卒中は35〜64歳でも平均44.5日、うつ病などの気分障害は85.3日。リハビリや回復に時間がかかる病気では、2〜3か月の入院も珍しくありません。
知らないと損するポイント
仕事のストレスや忙しさから、30代・40代でも心の不調で長く休むケースがあります。「自分はまだ若いから大丈夫」とは言い切れないのが、入院のリスクです。
また、これらはあくまで平均の数字です。同じ病気でも、症状や体の部位、年齢によって経過は大きく変わります。「1か月の予定だった入院が3か月に延びた」ということも珍しくありません。病気だけでなく、交通事故などのケガで長く入院することもあり、若いから大丈夫とは限りません。
「入退院のくり返し」という見えにくいリスク
ここで、ぜひ知っておいてほしいことがあります。
知らないと損するポイント
上の平均入院日数は、「1回の入院」ごとの日数です。実は、退院したあと2回目以降の入院が何日続いたか、何回入退院をくり返したかは、この調査では調べられていません。「平均〇日だから短い」と考えると、入退院をくり返すリスクを見落としてしまいます。
入院が短くなった背景には、治療の一部を通院や、短い入院の組み合わせに切り替える流れがあります。たとえば、次のようなケースです。
- 1
がんの治療
手術で入院 → 退院後に抗がん剤や放射線治療 → 再発や副作用で再入院
- 2
脳卒中・骨折
急性期の病院に入院 → リハビリ病院へ転院 → 自宅に戻ってからも通院
- 3
心の病気
症状が落ち着いて退院 → 再び悪化して入院、をくり返すこともある
1回1回の入院は短くても、トータルの期間や費用は大きくなりがちです。そして、ここに医療保険の落とし穴があります。
医療保険の「180日ルール」に注意
多くの医療保険では、退院してから180日以内に同じ病気で再入院すると、前の入院と合わせて「1回の入院」として扱われます。
入院した日数
合計70日
40日入院し、退院から180日以内に30日再入院
保険が支払われる日数
60日分まで
2回合わせて「1回の入院」扱い
※一般的な例。扱いは保険会社・商品によって異なります
「入院給付金は1入院60日まで」という保険は多く、短い入院なら十分です。でも、長期入院や入退院のくり返しまで考えると、足りなくなることがあります。
入院すると、実際いくらかかる?
生命保険文化センターの調査(2025年度)によると、入院したときの自己負担額は次のとおりです。
1日あたりの平均
約2.4万円
治療費・食事代・差額ベッド代・交通費・日用品など
1回の入院の平均
約18.7万円
約7割は20万円未満
※生命保険文化センター「生活保障に関する調査」2025年度
この中には、健康保険がきかない費用も含まれます。
- 1
差額ベッド代
個室などを希望した場合の費用。1日数千円〜数万円
- 2
入院中の食事代
1食ごとに決まった額を自己負担
- 3
日用品・交通費
パジャマ、タオル、家族のお見舞いの交通費など
- 4
先進医療の技術料
保険がきかず全額自己負担。数百万円かかるものも
治療費には「上限」がある|2026年8月から変わった高額療養費制度
日本には、1か月の医療費の自己負担に上限を設ける高額療養費制度があります。この制度が、2026年8月の診療分から見直されました。
| 年収の目安 | 〜2026年7月 | 2026年8月〜 | 年間の上限(新設) |
|---|---|---|---|
| 約370万〜770万円 | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 85,800円+(医療費−286,000円)×1% | 53万円 |
| 約770万〜1,160万円 | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 179,100円+(医療費−597,000円)×1% | 111万円 |
| 約1,160万円〜 | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 270,300円+(医療費−901,000円)×1% | 168万円 |
たとえば、年収500万円の会社員が入院して、1か月の医療費が100万円かかった場合、窓口で払う3割(30万円)のうち、自己負担の上限は約9.3万円です(2026年8月以降)。
入退院をくり返す人には、うれしい見直しも
今回の見直しでは、1か月の上限は少し上がりました。一方で、1年間(8月〜翌年7月)の上限が新しくできました。また、直近12か月で上限に達した月が3回以上あると、4回目からは上限が下がる「多数回該当」も続きます(年収約370万〜770万円なら44,400円)。
治療が長く続く人や、入退院をくり返す人ほど、年間の上限によって負担が抑えられるようになっています。
「上限があるから安心」とは限らない、お金の流れ
高額療養費制度には、もう1つ注意点があります。それは、お金がいつ戻ってくるかです。
あとから払い戻しを受ける場合、戻るまで3か月以上かかることも
当面の支払いにあてる生活防衛資金を用意しておく
急な入院では、事前の手続きが間に合わないことがある
マイナ保険証を使うか、限度額適用認定証を早めに申請すると、窓口の支払いが上限までになる
病気を受け入れられない気持ちのときは、手続きどころではないことも
家族にも、制度と保険証券の場所を伝えておく
知らないと損するポイント
高額療養費の対象は、健康保険がきく治療費だけです。差額ベッド代、食事代、先進医療などは対象外。上限があっても、それ以外の出費は別にかかります。
一番大きいのは「働けない間の収入」
医療費は高額療養費制度で上限があります。実は、入院でより大きな影響が出やすいのは、働けない間の収入です。ここは、働き方によって大きく違います。
| 会社員・公務員 | 自営業・フリーランス・個人事業主 | |
|---|---|---|
| 加入している健康保険 | 健康保険(協会けんぽ・健保組合など) | 国民健康保険 |
| 傷病手当金 | あり | 原則なし |
| もらえる金額 | 給与(標準報酬)のおよそ3分の2 | — |
| もらえる期間 | 支給開始から通算1年6か月 | — |
会社員なら、月給36万円の人で、傷病手当金は月におよそ24万円。収入は減りますが、ゼロにはなりません。
一方で、自営業やフリーランス、国民健康保険に加入している人には、原則として傷病手当金がありません。働けない期間がそのまま収入ゼロにつながることもあります。会社の役員として社会保険に加入している経営者は傷病手当金の対象になりますが、役員報酬の扱いによっては注意が必要です。
入院への備えは「3段がまえ」で考える
入院のお金は、1つの方法だけで備える必要はありません。順番に重ねていくのがおすすめです。
- 1
公的な保障を知る
高額療養費制度、傷病手当金など。まず「国が何をしてくれるか」を確認する
- 2
生活防衛資金で備える
生活費の3〜6か月分を預金に。自営業・経営者は6か月〜1年分あると安心
- 3
保険で足りない分をカバー
長期入院、入退院のくり返し、働けない期間など、貯金では不安な部分を保険で
医療保険を選ぶときのチェックポイント
医療保険を検討するときは、「入院1日いくら」だけでなく、長期入院と入退院のくり返しに対応できるかを見ておきましょう。
1入院の支払日数が60日まで
長期入院や入退院に対応できる保険を選ぶ
同じ病気の再入院は「1回の入院」扱い
180日ルールと、通算の支払限度日数を確認する
入院が短いと、日額型は受取額が少ない
入院日数にかかわらず受け取れる「入院一時金」タイプも検討する
退院後の通院は対象外のことも
退院後の通院保障や、がんの通院治療への保障があるか確認する
先進医療は高額になることがある
先進医療特約が付いているか確認する
FPの相談現場から
ご相談では「何となく入った医療保険が、実は60日型で通院保障もなかった」というケースがよくあります。保険証券を出して、1入院の日数・通算の日数・通院の保障の3つを確認するだけでも、今の備えで足りるかどうかが見えてきます。
まとめ
- 入院は短くなっているが、脳卒中や心の病気では2〜3か月の長期入院も
- がんや脳卒中では、入退院や転院をくり返すことがある
- 平均入院日数のデータには、2回目以降の入院やくり返しの回数は含まれていない
- 医療保険は「180日ルール」で、再入院が1回の入院と扱われることに注意
- 高額療養費制度は2026年8月に見直され、年間の上限が新設された
- 会社員には傷病手当金があるが、自営業・フリーランスには原則ない
- 公的な保障 → 生活防衛資金 → 保険、の3段がまえで備える
生活防衛資金のつくり方は、先取り貯金の仕組みづくりで、保険料を含む固定費の見直し方は、固定費の見直しでくわしく解説しています。
よくある質問
高額療養費制度があれば、医療保険はいりませんか?
貯金が十分にあれば、医療保険なしでも対応できる場合があります。ただし、高額療養費制度の対象は健康保険がきく治療費だけで、差額ベッド代や食事代、働けない間の収入減は対象外です。長期入院や入退院のくり返し、自営業で傷病手当金がない場合などは、保険で備える意味があります。
入退院をくり返した場合、医療保険はどう支払われますか?
多くの医療保険では、退院から180日以内に同じ病気で再入院すると、前の入院と合わせて1回の入院として扱われます。1入院の支払日数の上限(60日など)を超えた分は支払われないため、契約内容を確認しておきましょう。扱いは保険会社や商品によって異なります。
自営業ですが、入院に備えて何をすればいいですか?
自営業やフリーランスの人が加入する国民健康保険には、原則として傷病手当金がありません。生活防衛資金を生活費の6か月〜1年分と厚めに用意し、働けない期間の収入を補う就業不能保険なども検討しましょう。

