お金は人の5倍働く?「お金に働いてもらう」とは|ピケティのr>gで考える

この記事の結論
経済学者トマ・ピケティは「r>g」という式で、お金が生む利益は、働いて得る収入よりも速く増えてきたことを示しました。資産のリターン年4〜5%に対して、経済の成長は年1〜1.5%。お金は人の何倍も働いてきたのです。この仕組みを、会社員や経営者が自分の家計に取り入れる方法を解説します。
あなたが寝ている間も、お金は働いてくれていますか?
「お金に働いてもらう」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。なんとなく投資のことだとはわかっても、「お金が働くって、どういうこと?」と聞かれると、うまく説明できない人も多いはずです。
この記事では、世界的なベストセラー『21世紀の資本』を書いた経済学者トマ・ピケティの研究をヒントに、「お金に働いてもらう」の本当の意味をひもといていきます。
人の働き方と、お金の働き方
私たちがお金を得る方法は、大きく分けて2つしかありません。
- 1
人が働く
会社員の給与や、事業の売上など。自分の時間と体力を使って稼ぐ
- 2
お金が働く
預金の利息、株式の配当や値上がりなど。持っているお金が、お金を生む
人が働くには、限界があります。1日は24時間しかなく、体調を崩せば働けません。年齢とともに、働ける時間も少なくなっていきます。
一方で、お金は休みません。夜も休日も、あなたが旅行している間も、24時間365日働き続けます。病気になることも、定年もありません。
「お金に働いてもらう」とは、自分が働いて得たお金の一部を、お金を生む場所に置いておくことです。
ピケティが示した「r>g」という不等式
2013年、フランスの経済学者トマ・ピケティは『21世紀の資本』を出版しました。日本でも2014年に翻訳が出て、700ページを超える専門書にもかかわらず話題になりました。
ピケティは、世界の国々の税金の記録などをもとに、数百年分の資産と所得のデータを集めて分析しました。そこから導いた結論が、次のシンプルな不等式です。
ポイント
r(資本収益率)> g(経済成長率)
| 記号 | 意味 | 身近な言い方 | ピケティが示した水準 |
|---|---|---|---|
| r | 資本収益率 | お金(資産)が生む利益の割合 | 年4〜5%程度 |
| g | 経済成長率 | 経済全体、つまり働く人の所得が伸びる割合 | 年1〜1.5%程度 |
r は、株式や不動産などの資産が、配当や家賃、値上がりなどで生む利益の割合。g は、経済全体の成長の速さで、働く人の給与が増えるペースとほぼ重なります。
ピケティによると、長い歴史の中で、r は g をほとんどの時代で上回ってきました。例外は、2つの世界大戦や戦後の高度成長が重なった20世紀の一時期だけ。そして21世紀は、成長率が下がる一方で、資産の利益率はあまり変わらないため、r と g の差はまた広がっていくと予想しています。
お金は人の「5倍」働く、という意味
r が年5%、g が年1%だとすると、お金が増えるスピードは、働いて得る収入が増えるスピードの約5倍ということになります。これが、この記事のタイトルの意味です。
働いて得る収入の伸び(g)
年1%
経済の成長とほぼ同じペース
お金が生む利益(r)
年5%
配当・家賃・値上がりなど
※ピケティが示した長期の水準をもとにした、わかりやすくするための例
年1%と年5%。数字だけ見ると小さな差ですが、時間がたつと驚くほどの違いになります。
| 年数 | 年1% | 年3% | 年5% |
|---|---|---|---|
| 10年後 | 110万円 | 134万円 | 163万円 |
| 20年後 | 122万円 | 181万円 | 265万円 |
| 30年後 | 135万円 | 243万円 | 432万円 |
年1%なら30年で35万円しか増えませんが、年5%なら332万円。増えた金額で比べると、約9.5倍の差になります。利益がさらに利益を生む「複利」の力で、差は年を追うごとに広がっていきます。
ポイント
お金が2倍になるまでの年数は「72÷利回り」でおおよそ計算できます(72の法則)。年1%なら約72年、年5%なら約14年です。
日本の給与は、この27年でどれだけ増えた?
では、日本で「人が働く」ほうは、どうだったのでしょうか。国税庁の統計によると、民間で働く人の平均給与は次のとおりです。
1997年
467万円
それまでの過去最高
2024年
477.5万円
27年かけて、ようやく更新
※1年を通じて勤務した給与所得者の平均
27年間で増えたのは、わずか約2%。年あたりにすると0.1%にも届きません。2024年は過去最高を記録しましたが、物価の上昇を考えると、実質的な暮らしのゆとりは増えていないと感じる人も多いでしょう。
同じ期間に、世界の株式市場は、途中で何度も大きな下落を経験しながらも、長い目で見ると成長を続けてきました。日本の家計の多くが、働いて得たお金を預金に置いたままにしてきた一方で、資産を持つ側は、その成長を受け取ってきたのです。
知らないと損するポイント
働いて得るお金だけに頼っていると、r>g の「g の側」にしか立てません。収入が伸びにくい時代こそ、お金の一部を「r の側」に置いておくことが大切です。
ピケティが本当に伝えたかったこと
ここで、大事な点を補足しておきます。ピケティが『21世紀の資本』で問題にしたのは、格差の広がりです。
資産を持つ人は、r の速さで資産が増えていきます。資産を持たず、働いて得る収入だけの人は、g の速さでしか豊かになれません。その結果、何もしなければ、持つ人と持たない人の差は広がり続ける。ピケティはこれを問題視し、資産が大きい人ほど税率が高くなる世界規模の累進資本税を提案しました。
この r>g には、ほかの経済学者からの反論もあります。たとえば「資本が増えすぎれば、利益率はいずれ下がるはず」という指摘や、「資産の増加の多くは住宅価格の上昇によるもので、株式などとは分けて考えるべき」という指摘です。r がこれからも年4〜5%であり続ける保証は、どこにもありません。
それでも、この研究から私たちが受け取れるメッセージはシンプルです。
働いて得たお金の一部を、「お金が働く側」に置いておく。
格差の問題を社会としてどう解決するかとは別に、一人ひとりの家計にできることは、自分も少しずつ「資産を持つ側」に入っていくことです。
今日から「お金に働いてもらう」3つのステップ
お金に働いてもらうといっても、いきなり大きな金額を投資する必要はありません。順番が大切です。
- 1
生活防衛資金をつくる
生活費の3〜6か月分は預金に。これがあると、相場が下がっても慌てずにすむ
- 2
毎月決まった額を積み立てる
給料日に自動で。少額からでも、時間を味方につけることが一番の近道
- 3
コストを抑える
手数料や信託報酬は、お金が稼いだ利益から毎年引かれる。同じ運用なら、コストが低いほど手元に残る
毎月3万円を30年間積み立てた場合を比べてみましょう。
積み立てた元本は、どれも1,080万円で同じです。でも、年5%で運用できた場合、お金が働いて増えた分は約1,417万円。自分が積み立てたお金より、お金が稼いだお金のほうが多くなる計算です。これが「お金に働いてもらう」ということです。
知らないと損するポイント
投資には、値下がりや元本割れのリスクがあります。年5%は、毎年その通りに増えるという意味ではありません。何年も下がり続ける時期もあります。生活防衛資金を確保し、長く使わないお金で、長期・積立・分散を心がけましょう。
「人が働く」も、やめなくていい
お金に働いてもらうことは、自分が働くことをやめることではありません。むしろ、資産形成の出発点は、働いて得る収入です。収入が増えれば、お金に働いてもらう金額も増やせます。
- 人が働く力を育てる:スキルを磨く、キャリアを見直す、副業や事業で収入を増やす
- お金が働く力を育てる:収入の一部を、長く使わないお金として運用に回す
この両輪がそろったとき、家計は一気に強くなります。
FPの相談現場から
ご相談では、収入が高い方ほど「忙しくてお金のことを考える時間がない」という声をよく聞きます。でも、お金に働いてもらう仕組みは、最初に一度つくれば、あとは自動で動き続けます。忙しい人ほど、早めに仕組みをつくっておく価値があります。
まとめ
- ピケティは、資産が生む利益(r)は、経済の成長(g)を長い間上回ってきたことを示した
- r が年5%、g が年1%なら、お金は人の約5倍のスピードで増える
- 複利の力で、30年たつと増える金額の差は約9.5倍に
- 働いて得たお金の一部を、「お金が働く側」に置いておくことが大切
- ただし、投資にはリスクがある。生活防衛資金をつくってから、長期・積立・分散で
お金を育てる制度の使い方は、NISA・iDeCoのメリットと注意点で、預金だけに頼るリスクは、インフレで減るのは「残高」ではなく「買える力」でくわしく解説しています。
よくある質問
r>g なら、投資すれば必ず儲かりますか?
いいえ。r は長い期間・多くの資産をならした平均の数字です。個別の株や短い期間では、大きく値下がりすることもあります。また、r がこれからも同じ水準である保証はありません。長期・積立・分散で、リスクと付き合いながら続けることが大切です。
少ない金額でも「お金に働いてもらう」意味はありますか?
あります。複利の効果は、金額よりも時間の長さで大きくなります。毎月数千円からでも、早く始めて長く続けることで、お金が働く期間を長くとれます。
ピケティの本は読んだほうがいいですか?
『21世紀の資本』は700ページを超える専門書なので、いきなり読むのは大変です。まずは r>g という考え方と、「資産を持つ側に少しずつ入っていく」というメッセージをつかめば十分です。興味があれば、解説書や入門書から読んでみるのもおすすめです。

